45 年目にして実現した一夜限りの奇跡。
細野晴臣、GRIM SPANKY、高田漣ら出演のベルウッド・レコード 45 周年記念コンサート。
日本のフォーク/ロックの名盤を生み出した伝説のレーベル、ベルウッドの創立 45 周年を記念して開催された「ベルウッド・レコード 45 周年記念コンサート」。会場となった新宿文化センターのロビーは、開演前からまるでお祭りのような賑やかさだった。ベルウッドのオリジナルグッズや参加ミュージシャンのCDを売るコーナー。アナログの中古レコードの販売コーナーもあって、早くもお宝を見つけた観客がレコードを脇に抱えている。そのすぐ横には、なんと参加ミュージシャンの鈴木茂が自身が制作したオリジナルグッズを販売して、ファンにサインをしている。まるで露店を楽しむように、観客は楽しげにロビーを行き交っていた。
そして、開演のベルが鳴る。最初に登場したのは総勢9名の大編成のはちみつぱいだ。即興演奏からゆっくりと「こうもりが飛ぶ頃」へ。その混沌とした演奏が終わらぬうちに、鈴木慶一はギターを置いてピアノの前に座り「塀の上で」を歌い出す。霧の向こうから聞こえてくるような美しいメロディー。そのドラマティックな演出も素晴らしい。続いて渡辺勝が「ぼくの倖せ」を歌い、叙情的でサイケデリックなはちみつぱいの魅力を味わった後に、登場したのがあがた森魚だ。長い付き合いになるあがたとはちみつぱいは、今年共演盤『べいびぃろん』をリリースしたばかり。あがたははちみつぱいをバックに、ベルウッドの記念すべき第一弾シングル曲「赤色エレジー」を、そして『べいびぃろん』から「べいびぃらんどばびろん」を歌った。曲の間に 45 年の年月が横たわる感慨深い選曲だ。ここでコンサ ートはセットチェンジのためにいったん休憩。
第二部が始まると、様々な楽器だけがセットされているステージにひとりで登場したのが高田漣。「ベルウッドが始まった時、僕は生まれていませんでした」と挨拶すると、ベルウッドを代表するミュージシャンであり、父親の高田渡の「コーヒーブルース」「銭がなけりゃ」を歌って会場を湧かせた。さらにバンドを招きいれて、大瀧詠一「びんぼう」を軽快に披露。
その後、高田は第二部のバンドマスターとして、次々とゲストを呼び込みながら様々な楽器を演奏する。この日、特別に編成された 45th Bellwood BAND は、高田をはじめ、林立夫(ドラム)、北山ゆう子(ドラム)、伊賀航(ベース)、 野村卓史(キーボード)といった面々だ。
高田に続く2番手で登場したのは GRIM SPANKY の二人。ヴォーカルの松尾レミは、物心ついた時から家でベルウッドのレコードが流れていたとか。「ぷかぷか」(西岡恭蔵)、「はいからはくち」(はっぴいえんど)の2曲を披露。原曲のロック色を全開にした「はいからはくち」に彼らの個性が光る。3番手はドレスコーズのヴォーカル、志磨遼平。 大滝詠一「空飛ぶくじら」を歌うと、会場から「いいよ!」と声が飛んで志磨の笑みがこぼれる。フリ付きで歌った高田渡「私は私よ」の艶っぽいヴォーカルも魅力的だった。4番手はルーツ・ミュージックをポップに聴かせる夫婦デュオ、ハンバートハンバート。今年リリースされた新作『家族行進曲』には細野晴臣がベースで参加していた。二人は「春一番コンサート」で共演した加川良の「教訓1」と西岡恭蔵「春一番」を披露。息が合ったデュエットを聴かせてくれた。
夫婦の次は兄弟のフォーク・デュオ、キセルが登場。「昔、共演した時に怒られたのが今では良い思い出」と語る高田渡「鮪に鰯」と、細野晴臣「終わりの季節」を披露。なかでも、ステージの照明を落として二人だけで歌った「終わりの季節」の静けさが胸に沁みた。そして、「渋谷系華やかなりし頃に、〈はっぴいえんどが好き〉と言ってくれて、とても力強く感じました」という高田の紹介で、曽我部恵一が登場。「一番好きなベルウッドのアルバムははちみつぱい」と告白した曽我部だが、「でも、ご本人達が出演するということで別のアーティストを」と選曲したのが、南正人 「紫陽花」といとうたかお「あしたはきっと」だ。曽我部の包容力溢れる歌声が会場に力強く響き渡った。
曽我部のバンド、サニーデイサービスはデビュー当時、はっぴいえんどと比較されることも多かったが、曽我部に続いて登場したのは、はっぴいえんどのギタリストとして活躍した鈴木茂。ロビーでサインをしていた時と同じ姿で、颯爽とステージに上がると観客の歓声はひときわ高まる。鈴木はベルウッドからリリースしたはっぴいえんどのラストアルバム『HAPPY END』について触れて、「あのアルバムをアメリカでレコーディングしたことが、僕のその後の音楽活動のきっかけになった」と振り返り、収録曲の「氷雨月のスケッチ」と『風街ろまん』に収録された「花いちもんめ」を演奏。観客はそのキレのあるギター・プレイに聴き入った。そして、トリは細野晴臣。まるで、仕事帰りに フラリと立ち寄ったような気軽さでステージに登場した細野。「〈相合傘〉を歌うんだけどキーが高いから1オクターブ下げて。あと、歌が入るきっかけを教えてください」とバンマスの高田に声をかける。どうやら、この日の演奏は ぶっつけ本番だった模様。「新作レコーディング中で全然寝てないんですよ」とボヤきながら「相合傘」が始まると途 端に心地良いグルーヴが生まれて、そこに細野の歌声がふわりと乗る。まるで名人の落語を聞いているような軽やかで贅沢な味わいだ。続く「ろっか・ばい・まい・べいびい」も絶品。かつて細野が暮らし、この歌を吹き込んだ家、『HOSONO HOUSE』に招かれたような親密な雰囲気のなか、会場の全員がその豊かな時間を満喫していた。
細野の歌の余韻に浸りながらコンサートはいったん幕。でも、拍手は鳴り止まない。そこで登場したのがベルウッド・レコード創立者の三浦光紀だ。「今日のコンサートは心の糧になりました」と挨拶。参加したアーティストを一人ずつ紹介して呼び込んでいく。そして、最後は参加アーティスト全員ではっぴいえんど「さよならアメリカ さよならニ ッポン」を演奏。歌が終わってアーティスト達がステージを降りる時、鈴木茂が細野の肩をポンと叩き、細野が振り返って浮かべた笑顔が忘れられない。世代を越えて集まったミュージシャンンたちを繋いだ数々の歌。その歌を通じて、ベルウッドが日本の音楽シーンに与えた影響の大きさが伺えた。ベルウッドという豊かな音楽の森は、いまもその裾野を広げ続けているのだ。
TEXT:村尾泰郎
PHOTO:有賀幹夫
■セットリスト
第一部
【はちみつぱい】
- こうもりの飛ぶ頃
- 塀の上で
- ぼくの倖せ
【あがた森魚】
- べいびぃらんどばびろん
- 赤色エレジー
第二部 45th Bellwood BAND
【高田漣】
- コーヒーブルース(高田渡)
- 銭がなけりゃ(高田渡)
- びんぼう(大瀧詠一)
【GLIM SPANKY】
- プカプカ(西岡恭蔵)
- はいからはくち(はっぴいえんど)
【志磨遼平】
- 空飛ぶくじら(大瀧詠一)
- 私は私よ(高田渡)
【ハンバート ハンバート】
- 教訓I(加川良)
- 春一番(西岡恭蔵)
【キセル】
- 鮪に鰯(高田渡)
- 終わりの季節(細野晴臣)
【曽我部恵一】
- 紫陽花(南正人)
- あしたはきっと(いとうたかお)
【鈴木茂】
- 氷雨月のスケッチ
- 花いちもんめ
【細野晴臣】
- 相合傘
- ろっか・ばい・まい・べいびい
【全員+はちみつぱい+あがた森魚】
- EC. さよならアメリカ さよならニッポン
◆ベルウッド 45th 関連作品
- 『センチメンタル通り[Deluxe Edition]』はちみつぱい
発売中/UHQCD, DVD-ROM, アナログ EP/KICS-93469~70/¥10,000+税 - 『べいびぃろん(BABY-LON)』あがた森魚&はちみつぱい
発売中/CD/KICS-3484/¥3,000+税 - 『Bellwood 45th Anniversary UHQCD Collection』
発売中/ UHQCD 全 20 タイトル / 各¥1,700(+税) - 『ナイトライダーズ・ブルース』高田漣
発売中/CD/KICS-3525/¥2,778+税